厳かな響きの「除夜の鐘」。
そのしきたりは、意外と柔軟的です
今年も、気がつけば、
大晦日まであとわずかとなりました。
1年が経つのは早いものです。
さて、大晦日といえば、
つきものなのが「除夜の鐘」。
その歴史を遡ると、
鎌倉時代に中国から伝わったものが、
室町時代になって
仏教行事として一般に広まり始め、
江戸時代になると、多くの寺院で
行われるようになりました。
大晦日を意味する“除夜”に、
この1年の感謝の気持ちを込めて
“除夜会(じょやえ)”や
“除夜法要”というその年の
締めくくりとなる法要を行います。
その一環として、
お寺の梵鐘を撞き、新しい年への
引き継ぎを行う大切な儀式が
「除夜の鐘」ということです。
仏様の声に等しい
鐘の音を聴くことで、
一切の苦役から逃れて、
悟りの境地に達する功徳があると
されてきました。
さて、
“除夜の鐘を撞く回数は108回”
という知識は、もうみなさん
ご存知だと思います。
では、「除夜の鐘」は、
どのタイミングで撞き始め、
いつ108回を撞き終わるのか
というと、
年内に107回を撞き終わり、
年が明けて最後の1回を撞く
というのが一般的です。
その時間は概ね、
大晦日の深夜23時頃から
元旦にかけて。
ただし、お寺によっては
200回以上撞くところもあり、
その場合は撞き始める時間が
早くなります。
さらに、夜の鐘の音が
騒音クレームに発展したり、
檀家の高齢化により
参拝者の減少など、
「除夜の鐘」を撞く時間を
昼間に繰り上げたり、
中止になるなど、
現代の社会事情を反映しているお寺も
少なくないそうです。
そうしたお寺側の見解は、
“お寺は、困った人の思いに
寄り添うところ”と、
伝統にとらわれない柔軟な
考え方を示されています。
また、一般参拝者が
「除夜の鐘」を撞けるお寺も
増えており、結構、有名なお寺でも
撞けるようです。
しかし、
希望者が殺到する場合も多く、事前に、
“一般参拝者が鐘を撞けるのかどうか”
“有料かどうか”
“人数や時間制限があるのか”
“事前予約は必要か”
“先着順の整理券配布があるのか”
などを確認することを
絶対にお忘れなく。
興味がある方は、
ぜひ「除夜の鐘」に
挑戦してみてください。
「除夜の鐘」の108回の内訳。
さて、
「除夜の鐘」を撞く回数の
“108”の由来は、諸説あります。
その中で、もっとも有名なのが、
煩悩の数です。
その内訳は
-
- “眼(げん/視覚)”
“耳(に/聴覚)”
“鼻(び/嗅覚)”
“舌(ぜつ/味覚)”
“身(しん/触覚)”の
五感に、第六感の
“意(い/意識)”を加えた
“六根(ろっこん)”から
生じる心の働きによって
煩悩が生み出される
というのが基本。
- “六根”から生まれる感情は、
“好(こう/良い)”
“悪(あく/悪い)”
“平(へい/どちらでもない)”
の3つに分類。
- その置かれている状態は
“染(ぜん/汚れたこと)”
“浄(じょう/清らかなこと)”
の2つに分類。
- 過去・現在・未来の
“三世(さんぜ)”にわたって、
悩みや苦しみが続く。
つまり、これらの組み合わせである
“6(六根)×3(良・悪・平)
×2(染・浄)×3(三世)”の
合計により、108の煩悩となります。
また撞く梵鐘の上部に、
25個ずつ4面、2個ずつ4面の
合計108個の“乳”と呼ばれる
イボのような形状の突起が
煩悩を表しているともいわれています。
また。別の解釈だと、
十二カ月+二十四節気+七十二候
という1年の歳時記を足した数が
108となり、1年の季節の移ろいを
表しているともいわれています。
さらに、
四苦八苦(4+9×8+9)の合計も
108という厄払い説もあります。
余談ですが、
野球の硬式ボールの
縫い目の数も108。
バッターの時に
煩悩を叩きつける意味でもあるのかと
考えてしまいますが、
野球の発祥はアメリカなので、
煩悩とは無関係。
ボールの縫い目が多いと
空けた穴が増え、それによって
ボールの強度が下がります。
また縫い目を減らすと、
縫っている糸が切れやすくなるため、
そのバランスがもっとも良いのが
108の縫い目ということです。
ちなみに、アメリカでは
ボールの縫い目は216と
認識されています。
これは縫い合わせた
両方を1縫いと数える日本、
片方ずつを1縫いと数えるアメリカの
数え方の違いのようです。
生きているだけで、
数々の欲にまみれてしまうので、
要はそれを受け入れた上で、
いかに正しく生きて行くかと
考えるのが大切です。
そして今年の煩悩は、
今年の内に洗い流し、
希望あふれる来年に、今年よりも
正しく生きようと心がけるのが、
正しい姿勢なのかもしれません。
ここは、「除夜の鐘」を聞きながら、
おせち料理を肴に、
熱燗を一献で年越しを、
煩悩を受け入れることから
スタートしましょう。