秋の彩りに寄り添う、日本の伝統色。

自然とともに育まれた色の言葉が、季節の酒席を豊かに彩ります。

秋も深まると、日本の風景はひときわ豊かに色づきます。「山々が燃えるような紅葉に包まれ、澄んだ夜空には冴えわたる月が昇る。」昔の人々はこうした季節の移ろいを敏感にとらえ、色の名に託してきました。日本の伝統色は、単なる視覚的な色彩表現ではなく、四季折々の自然に寄り添い、文化や暮らしに根差した“季節を愛でる色”でもありました。とりわけ、秋を彩る伝統色は、秋ならではの旬の食卓やお酒を楽しむシーンに見事に溶け込んでいます。

たとえば「茜色」。

夕暮れの空が茜草の根で染めた布のように赤く染まることから名付けられた色です。秋の夕べに盃を傾ければ、その赤みを帯びた夕焼けが盃に注いだ燗酒に映り込み、ほのかな酔いとともに一日の終わりを美しく締めくくってくれます。同じ赤系の紅葉の盛りを表す「紅葉色(もみじいろ)」もまた、秋を代表する色。山里を彩るカエデを愛でながらの酒席は、自然と人とがひとつにつながる瞬間。その風景はさらに鮮やかに心に焼き付くでしょう。

一方で、秋の夜長を表すのは、「藍色」や「紺青(こんじょう)」といった深い青がふさわしいかもしれません。

澄んだ夜空を仰ぎ、静けさの中で盃を手にする。そこに映る月影は、まさに月見酒の情景を映し出しています。白く冴えた月を表す「月白(げっぱく)」という名もあり、清らかな酒の透明感と呼応するように、季節の趣を映しているようです。

さらに秋の食卓に目を向けると、「栗色」や「柿渋色」といった落ち着いた色が登場します。炊き立ての栗ごはん、熟れた柿を肴に味わう一献。酒そのものの色ではなく、ともに楽しむ料理や器がもたらす色彩が、酒席をいっそう豊かに演出します。

器に使われる「胡粉色(ごふんいろ)」や暖かみも、料理と酒を引き立てる大切な存在。伝統色は、目に見えるものすべてを含んで“秋の食卓”を描いているかのようです。

日本の伝統色の魅力は、文学や和歌の中にも記されています。“色を揉み出す”ことから生まれた「もみじ」という言葉や、秋の夜を詠んだ歌に重ねられる「茜」「月白」などの表現。色の名は、自然そのものを表すと同時に、人々の感情や風情を織り込んだ詩的な言葉でもありました。ひとつひとつの色の名称にも物語が宿っており、その意味をたどるのも面白い楽しみ方。海外の色彩表現が「ブラウン」「オレンジ」と大まかに捉えるのに対し、日本の色名は植物や光景、情緒に根ざして細やかに分かれている点も特色です。

こうして見てみると、日本の伝統色は単なる色彩を超えて、四季折々の風景や人々の暮らしを写し取る文化そのものだといえます。秋の酒席に寄り添うのは、紅葉の赤でも、夜空の藍でも、月の白でも構いません。色を知り、感じることで、その一献はさらに深い味わいをもたらします。盃を通して秋を愛でる時間に、日本人が大切にしてきた伝統色の心を重ねてみてはいかがでしょうか。

菊正宗 特撰 きもとひやおろし 720mL
冬に搾った新酒をひと夏熟成し、火入れせずに生詰めした、この時期にしか飲めない「ひやおろし」です。
辛口の「灘酒」は出来上がった直後は若々しく荒々しい酒質ですが、半年間熟成させると香味が整い、味わいも丸くなって酒質が格段に向上します。
菊正宗の「ひやおろし」は、生もと造りで醸した、キレのある押し味が特徴。
秋の味覚を引き立てます。

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https://www.kikumasamune.shop/

ラジオ体操、国体、体育の日、そしてスポーツの日へ。日本の健康志向の系譜。

体を動かす文化は、連綿と続くスポーツ振興によって育まれました。

「体育の日」は、現在は「スポーツの日」とその名を変えて定着している10月のたったひとつの祝日です。日本初の東京オリンピック開会式が行われた10月10日を記念し、1966年(昭和41年)に制定されたこの祝日は“体を動かすことを意識する日”として親しまれてきました。

その歴史を紐解いていくと、菊正宗と縁戚関係にある、柔道家であり教育者でもあった嘉納治五郎へとたどり着きます。

彼は欧米視察で体育教育の重要性を学び、日本での“体を動かす授業”導入に尽力しました。その結果、従来の学問中心の教育に、身体を鍛えることを体系的に組み込むことが実現。これは、日本の近代教育の大きな転換です。“運動は心身を育てるために欠かせない”という考え方が広まり、国民の意識を大きく変えるきっかけとなりました。さらに時代が進むと、1928年(昭和3年)に始まったラジオ体操が“誰でも、どこでも、短時間”でできる国民的運動習慣として普及します。学校や職場、地域で繰り返し行われたこの取り組みは、日常生活の中で自然に体を動かす文化を育み、現在も運動会などで継続されています。

そして戦後すぐに始まった国民体育大会(国体)は、国民の健康志向を社会的な広がりへと導きました。1946年(昭和21年)の第1回大会は、戦後復興を象徴する行事として受け入れられ、各都道府県持ち回りによる開催は、施設や道路整備、観光振興などの副産物をもたらしました。 “スポーツによって地域が変わる”という実感を全国に広げることとなったのです。

このような流れを経て制定された「体育の日」は、嘉納治五郎の提唱した体育教育、ラジオ体操による運動習慣、国体による地域振興といった多彩な運動機会の延長線上にありました。それまで一部の愛好家にとどまっていた運動を、全国規模で一斉に意識させる祝日とすることで、スポーツは“誰もが関わる行事”へと広がっていきます。

高度経済成長期とも重なり、ジョギングやテニスなど余暇としてのスポーツが広く浸透し、“体を動かすこと=健康で豊かな暮らし”という価値観が定着していきました。日本が世界一の長寿国になった要因のひとつには、こうした生活に根差した健康習慣への取り組みがあるといえるでしょう。

その後、2000年(平成12年)にハッピーマンデー制度によって、10月10日という固定日から10月の第2月曜日に移動しました。この制度は、祝日を月曜日に移動させることで3連休をつくり、国民の余暇を充実させる仕組みです。

さらに、2020年(令和2年)の東京オリンピックを契機に「スポーツの日」へと名称変更されました。国際的にも通用する“スポーツ”という表現を使うことで、より幅広い文化や交流を含めた祝日と位置づけられたのです。

振り返れば、嘉納治五郎の教育改革から始まり、ラジオ体操が日常に根づき、国体が地域を盛り上げ、そして体育の日が国民的なスポーツ意識を育てました。スポーツの日は、この連なりの先にある存在として、これからも私たちに“体を動かす喜び”を伝え続けてくれるでしょう。

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10月初旬は“日本酒の日”と“イワシの日”。旬の饗宴に舌鼓。

酒と魚。日本の食文化を象徴する二つの恵みが重なる、秋の始まり。

10月1日は「日本酒の日」、そして3日遅れて10月4日は「イワシの日」です。このどちらも日本人の暮らしに深く根づき、秋の食卓を豊かに彩ってきました。まだ厳しい残暑は続きますが、虫の声も聞こえ始め、これから徐々に秋の気配を感じる、そんな時期です。

なぜ10月1日が「日本酒の日」なのかといえば、酒の文字に由来があります。

「酒」の漢字は 一見“さんずいへん”と思われがちですが、部首は“酉(とりへん)”。この“酉”は酒壺をかたどった象形文字で、酒や発酵にまつわる漢字の多くに用いられています。酔、酢、酪、酵、醤など、いずれも食や酒と関わりのある文字ばかりです。そして十二支の“酉”が10番目にあたることから、10月が“酒の月”とされ、その最初の日が「日本酒の日」に制定されたのです。さらに10月1日は酒造年度の切り替えにもあたり、多くの蔵元が新たな酒造りに気持ちを新たにする節目でもあります。まさに日本酒にとって新しい一年の始まりなのです。

一方、「イワシの日」は、“1=い、0=わ、4=し”の語呂合わせにちなんだ記念日です。

イワシは古くから庶民の味として親しまれてきました。新鮮な刺身、脂ののった塩焼き、梅煮やつみれなど、食卓に並ぶ料理の種類は多彩です。また、冬の節分には厄除けにも用いられるなど、食べるだけでなく暮らしや信仰にも結びついた魚といえるでしょう。秋から冬にかけては脂がよくのり、日本酒と合わせて楽しむにはまさに旬の季節です。

そして、この二つの記念日をつなぐのが、酒と魚の相性です。どちらも日本人にとって身近で、互いを引き立て合う存在。寒さが増すこれからの季節には、熱燗にして合わせれば体の芯まで温まります。また夏の暑さが残る夜は、冷酒で楽しむのも粋な過ごし方。燗酒と冷酒の両方が楽しめる絶妙な季節なんですから。

脂がのったイワシの塩焼きには、キリッと辛口の純米酒がぴったり。香ばしい皮目と濃厚な脂を、酒の切れ味がさっぱりとまとめてくれます。梅煮のように酸味のある料理には、旨みと辛みが調和した酒がよく合い、料理に奥行きを与えてくれます。刺身のように素材をシンプルに味わう料理には、冷やで楽しむと酒の冴えが魚の旨みを引き立てます。さらに家庭で簡単に楽しめるイワシの蒲焼きや、イワシ缶を使ったアレンジ料理にも、日本酒はよく寄り添います。とくに端麗辛口の酒なら、甘辛いタレや濃い味付けの料理を後味よくまとめてくれるのです。

このようにイワシ料理のさまざまな顔を引き立てるのは、まさに菊正宗の酒質。すっきりとした辛口は脂を流し、旨みを際立たせ、燗にすれば一層の豊かさを醸します。江戸の昔から、魚とともに育まれてきた日本酒の食文化。その流れを今に伝えるのが辛口の菊正宗なのです。

10月の始まりには、日本酒の日とイワシの日という二つの記念日が重なり、旬を満喫できる特別な月になります。新しい酒造年度の幕開けに杯を掲げ、イワシ料理と合わせて旬を讃える。そんな食卓の過ごし方こそ、日本ならではの贅沢ではないでしょうか。ぜひ今月は、日本酒とイワシで秋の美味しさを存分に味わってみてください。

菊正宗 特撰 きもとひやおろし 720mL
冬に搾った新酒をひと夏熟成し、火入れせずに生詰めした、この時期にしか飲めない「ひやおろし」です。
辛口の「灘酒」は出来上がった直後は若々しく荒々しい酒質ですが、半年間熟成させると香味が整い、味わいも丸くなって酒質が格段に向上します。
菊正宗の「ひやおろし」は、生もと造りで醸した、キレのある押し味が特徴。
秋の味覚を引き立てます。

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小さな猫に託した幸福を呼び込む願い。9月29日は「招き猫の日」。

江戸の縁起担ぎから現代のキャラクターへ。愛らしさが、最大の猫の魅力。

9月29日は「招き猫の日」です。その由来は“くる(9)ふく(29)=来る福”の語呂合わせからきています。商売繁盛や開運招福の象徴として広く知られる招き猫。その背景には、日本人が大切にしてきた縁起担ぎや遊び心を垣間見ることができます。

招き猫は、上げている手によって意味が異なります。左手を上げているものは、人との縁や千客万来を願う姿です。右手を上げているものは金運や商売繁盛を招き、両手を上げているものは福も人も一度に呼び込むとされます。さらに毛色にも意味があり、三毛猫は幸運、黒猫は厄除け、白猫は開運と、それぞれの思いが込められています。

猫が日本に伝わったのは奈良時代。仏教の経典をネズミから守るため、古代中国から船に同乗してやって来たといわれています。950年、宇多法皇が「寛平御記」に猫を飼っていたと記したことが、日本最古の“飼い猫”に関する記録。渡来当初は実用面で重宝されましたが、やがて宮中で可愛がられ、平安時代の和歌にも数多く詠まれました。とくに室町から江戸にかけて盛んになった養蚕業でも繭を食べるネズミ退治に欠かせない存在となり、猫は人々にとって“福をもたらす身近な生き物”として浸透していきました。

江戸時代中期、徳川綱吉の「生類憐みの令」では、猫を紐でつないで飼うことが禁じられ、町中で自由に歩き回る姿が庶民の生活に溶け込んでいきます。米や書物、繭玉や織物をネズミから守る猫は生活に直結した頼もしい存在。その自由気ままなツンデレ姿は、人々をさらに魅了しました。さらに夜目が利くことから、魔を払う不思議な力を持つと考えられ、毛色や姿に意味を重ねる習俗が広がりました。これが、招き猫のような縁起物へとつながっていきます。

猫は浮世絵や戯作にも多く描かれました。なかでも歌川国芳は無類の猫好きとして知られ、擬人化したユーモラスな猫の絵を数多く残しています。歌川広重や国貞も作中に猫をさりげなく登場させるなど、猫は江戸庶民にとって“かわいらしい福の象徴”として定着していきました。

平和な時代が続いた江戸中期以降、武士や公家中心の文化から町民文化が大きく花開きます。歌舞伎や浮世絵、年中行事や縁起物が庶民の暮らしを彩り、そのなかで“招く”という言葉は頻繁に用いられました。歌舞伎の顔見世興行では「まねき看板」に役者の名を大書して観客を呼び込み、店先の招き猫もまた福や人を呼び、商売を盛んにする願いを託されたのです。さらに「春夏冬二升五合=商い益々繁盛」と読む“判じ物”のように、江戸庶民は文字や絵に意味を重ねる遊び心を愛しました。その精神が招き猫にも宿り、ただの置物を超えて文化を象徴する存在へと育っていったのです。

現代に生きる私たちにとっても、招き猫はユーモラスで庶民的なキャラクターとして親しみやすい存在です。9月29日の「招き猫の日」に、改めてその由来と文化的背景に触れてみるのも一興。ちょっとした猫の仕草の裏に、江戸庶民の祈りや洒落心が見え隠れすることを思うと、招き猫を眺める時間が一層楽しくなるはずです。

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思わず共感する誰もが経験する“アノ現象”。

身近なアノ現象は、さまざまな分野の研究により解明されています。

今回は、日常で出くわす“アノ現象”のお話です。テレビを観ていて、よく知っているタレントなのにどうしても名前が出てこない。顔やイメージは浮かぶのにどうしても思い出せない。そんなとき、“ほら、あのドラマに出て、〇〇という女優さんと共演してた”“〇〇って誰だっけ”と、会話がどんどん記憶の深い沼に沈んでいきます。これは「舌先現象(TOT現象)」や「ベイカーベイカーパラドクス(“名前”より“職業”の方が記憶に残りやすいという逆説的な現象)」と呼ばれ、俗に「アレアレ症候群」ともいわれます。名前に限らず、頭の中に答えはあるのに言葉が出てこない状態です。

こうした日常の“?”は数多く存在し、それらを総称してアノ現象と呼びます。心理や行動を分析すると“あるある”はいっぱい。たとえば試験勉強や山積みの仕事を前に、つい部屋を片付け始めるのは「セルフハンディキャッピング」。失敗しても自分の心が傷つかないように、あらかじめ言い訳理由を用意する心の働きです。何かを取りに別の部屋に行ったのに目的を忘れてしまう「ドアウェイ効果」もよく知られています。似た言葉に「ドアノブ効果」があります。これは、部屋を出る直前に思わず本音を漏らしてしまうという現象です。

また「ゲシュタルト崩壊」は、少し前のドラマ「逃げ恥」で注目されました。同じものを見続けると脳が疲労したり、注意力が散漫になったりすることで、全体をまとめる機能が弱まるというもの。同じ漢字を何度も書いている際に、文字としての認識が薄れ、“あれっ、こんな字だった?”となるあの体験です。ユニークなのは40年前に話題になった「青木まりこ現象」。本屋に行くと急に便意をもよおすという彼女の投稿から生まれ、テレビ特番も組まれました。インクの匂いや自律神経、不安効果などの説は出ましたが、いまだに解明されていません。

これらの現象は決して特殊な人にだけ起こるのではなく、人類共通の“あるある”として誰もが体験していることが大きな魅力です。専門用語は難しくても、身近な体験に置き換えれば「ああ、それある!」と共感できるのです。

甘味が強いほど香りが際立って感じられるのは、脳が味覚と嗅覚の情報を統合している証拠とされています。これと似た体験が辛口の日本酒でも起こります。辛口=ドライという印象がある一方で、実際に口に含むと奥深い穀物の香りや吟醸香が鮮やかに立ち上がってくるのです。

これは辛口のキレが余韻を透明にし、香りを“解放”しているからであり、辛口だからこそ香りがクリアに際立つ。そんな一瞬の味わい体験もまた、私たちの脳が生み出す“アノ現象”。菊正宗の“うまいものを見ると、菊正が欲しくなる。辛口の菊正を飲むと、うまいものが食べたくなる”というCMの言葉は、その感覚を見事に言い当てているのかもしれません。

「菊正宗 上撰 1.8L」
居酒屋でお馴染みのキクマサ!
きもと造りは、現在酒造りの主流である市販の乳酸菌を添加する手法とは異なり、生きた乳酸菌の力を借り、力強い酵母をじっくりと育てる伝統の酒造りです。
スッキリと雑味がなく、しっかりとした押し味とキレのあるのど越しが特徴の、料理の味が引き立つ本流辛口酒です。

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