多岐にわたる渋柿の利用用途。
はるか昔から
庶民のくらしを支えていました。
渋柿の“柿渋”が、
平安の昔から現在に至るまで
数多くの用途に利用され、
社会や生活を陰ながら支えてきた
一部を、前のコラムで紹介しました。
そうした産業面での
柿渋の用途について、
少し詳しくひも解いてみましょう。
平安から脈々と利用されてきた柿渋は
、江戸時代に隆盛を極め、
江戸の町には、柿渋を売る
「渋屋」が何軒も軒を並べる、
いわば“柿渋通り”
のようなものが存在。
当時は、一部の寒冷地を除いて
日本全国に柿渋の生産地があり、
岐阜の美濃渋、京都の山城渋、
岡山の備後渋が“日本三大渋”
と呼ばれていました。
それから時代は流れ、
第二次世界大戦後になって、
数多くの石油化学製品の登場
に伴って、柿渋の需要が減り、
その多くが衰退。
現在は、京都の山城地区で
集中して生産されています。
柿渋は、春先の実が青くて
渋が多い時期に搾り、
自然発酵させ、
発酵後約2〜3ヵ月ほどで
熟成渋の成分だけを
抽出するのが基本です。
現在は、柿渋抽出の研究も進み、
酵母菌による発酵や
アルカリ系物質との化学変化、
発酵させない方法などにより、
無臭の柿渋がつくられるように
なりました。
そんな柿渋の主な役割は、
防虫、防腐、防水、薬など、
利用目的は多岐に渡ります。
昔から庶民の服を染める
染料をはじめ、
木材に塗って防水、
腐食の防止に利用。
現在でも建築資材に塗布して
シックハウス症候群対策として
使われています。
また補強材として漆器の下地塗り、
腰のある強度、防水目的で
和紙に塗って番傘や団扇に使用。
昔は多くの家で
柿渋をつくる習慣があり、
建具、木や竹の籠、
和紙を貼った木製籠、
漬物樽やタライ桶、
縄灰と混ぜて家の外壁塗装など、
生活の中にあるさまざまな道具の
防虫、防腐、防水、補強目的に
使われ、江戸の庶民のくらしを
支えてきました。
さらに、強度、防水用として
漁師の魚網や釣り糸に塗布。
海運業でも、木造船の船体に塗り、
防水、防腐、補強の
役割を担っていました。
日本酒の清澄剤(せいちょうざい)
にも柿渋が利用されていることは
以前にお伝えした通り。
最近では、携帯電話やスマホの基盤に
使用されている金を回収する際に、
金に柿渋を吸着させて回収する
研究も進められています。
また、
未来に向けた国際的な取組である
SDGs(持続可能な開発目標)
の観点から、柿渋を利用した
染料や漁船の船底塗料、
身近なところではレジ袋の代わり
となる紙袋の補強材など研究が
推し進められているとのこと。
時を経て、新型コロナウイルスや
ノロウイルスなど細菌に対する
不活性化効果があることが
発表されたこともあって、また再び、
自然由来の柿渋への注目が
集まっています。
“柿タンニン”の高い効果に加え、柿そのものの栄養価もかなり高い逸材です。
柿渋が身体にもたらす効果のひとつに
“収れん作用”があります。
これはタンパク質を変形させること
で細胞組織や血管を縮める作用で、
渋みを伴うことから、
アストリンゼント効果
とも呼ばれています。
“収れん作用”は
止血、鎮痛、炎症の抑止、防腐
などの効果があり、
化粧品や医薬品に用いられています。
また、ポリフェノールをはじめ、
タンニンやカテキン、
フラボノイド、カロテンなどの
さまざまな抗酸化物含有量は
柿渋100g中に3500mgと豊富。
緑茶230mg、赤ワイン300mgと
比較すると、10倍以上も
含有されていることになります。
そのためポリフェノールによる
悪玉活性酸素の作用を
抑える働きをはじめ、
タンニンによる
ウイルスや菌の増殖を抑える働き、
カテキンによる脂肪燃焼効果や
血中コレステロールを
低下させる働き、
血圧・血糖値上昇を
抑制する働きなど、
健康面への期待が高まる素材
といえます。
柿の果肉そのものにも
ビタミンAとCが豊富で、そのほか
カリウム、βカロテン、リコピンなど
の多くの栄養素を含んでいます。
柿のヘタはしゃっくり止め
などの漢方薬として利用。
さらに、柿の若葉には
ビタミンCをはじめ、
ビタミンKやB群、柿タンニンなどの
ミネラル分フラボノイドなどを
多く含み、血管を強くしたり、
止血作用があるとされ
“柿葉茶”など、民間療法として
古くから用いられてきました。
柿の葉に含まれるビタミンCは、
みかんの約30倍
にものぼるといいます。
また、殺菌効果を利用した
柿の葉寿司は有名です。
秋の味覚程度の認識しかなかった
柿について、調べれば調べるほど
その効果効能の幅広さや
長い歴史を支えてきた役割に
驚くばかりです。