彼岸の名を冠した繊細できれいな“彼岸花”ですが、忌み嫌われる花。

彼岸を意味するサンスクリット語の“パーラミタ”は、お経の“波羅蜜多”に。

間もなく秋のお彼岸です。

太陽が天体の赤道を北から南へと
横切る秋分点を通過する“秋分”を
基準にして、前後3日間ずつ
合計7日間がお彼岸の期間です。

今年は9月19日から25日までとなり、
初日を“彼岸入り”、最終日を
“彼岸明け”、祝日でもある22日の
“秋分”は中日(ちゅうにち/なかび)
と呼ばれています。

太陽が真東から昇り、
真西に沈む“秋分”は
昼と夜の長さがほぼ同じになり、
仏教の教えでは、
物事のバランスが取れた時期です。

西方に極楽浄土があると信じられ、
太陽が真西に沈むこの時期は、
ご先祖様のいる極楽浄土を
“彼岸(ひがん)”、
私たちが生きている現世を
“此岸(しがん)”がもっとも
通じやすくなると考えられています。

また、“秋分”の前後3日間が
設定されている理由は、
仏教の「六波羅蜜(ろっぱらみつ)」の
教えに由来。

六波羅蜜は、
悟りに至るための6つの徳目
(布施、持戒、忍辱、精進、
禅定、智慧)を実践することで、
煩悩を乗り越え、
彼岸に到達するという教えです。

秋分の日を中日とし、
その前後3日間は、
この六波羅蜜の教えを実践し、
煩悩を超えて心を清める
期間として定められています。

古来、農業国立国であった日本には、
農作物を育てる太陽の恵みと
祖先への感謝とを表した
太陽信仰がありました。

この信仰を“日願(ひがん)”と
呼んでいたことと仏教の教えが
結びついて
“彼岸”という言葉が生まれました。

また、“彼岸”はサンスクリット語の
“paramita(パーラミタ)”で、
その音の響きから、
日本語で“波羅蜜多(はらみた)”
と表記され、般若心経などに
この言葉が残されています。

お彼岸の時期に姿を見せるのが、
その名前を冠した彼岸花で、
華やかで繊細な花びらが印象的です。

別名の曼珠沙華
(まんじゅしゃげ/まんじゅしゃか)は、
サンスクリット語で
“赤い花”を意味する
“manjusaka(マンジュシャカ)”が
由来とされています。

しかし、この彼岸花が仏壇に
供えられることはあまりありません。

お墓周辺に群生し、
まっすぐに伸びた緑の茎の先に
咲く花の姿は、
まるで死者が空に向かって
手を伸ばすかのような形状です。

真っ赤な花の色は血の色ともいわれ、
死を連想させる
縁起の悪い花と忌み嫌われています。

かつて土葬が行われていた時代に
野生の獣に墓を荒らさせないために、
根に毒がある彼岸花を
墓の周りにたくさん植えたことが、
かえって悪いイメージに
つながったようです。

“死人花”“幽霊花”“地獄花”
などの別名もあり、
毒性を持つことから子供がむやみに
花に近づかない戒めの
意味もあるといいます。

彼岸花の球根に含まれている
アルカロイドという成分は、
吐き下しなどの作用がありますが、
球根を潰して水によくさらせば
毒性は抜けるとのこと。

人家の近くに群生しているのは、
かつて飢饉用の非常食や
薬として植えられ、
活用されてきた名残ではないかとも
いわれています。

今年は彼岸花をぜひ身近で観察して、
先祖に感謝の気持ちを
向けてみてはいかがですか。