八十八夜。意外にも、日本酒にも大切な節目。

“八十八夜”で思い出す唱歌「茶摘」。

八十八夜というと、
子どもの時に習った唱歌「茶摘」の
“夏も近づく八十八夜♪”
という歌詞が、頭をよぎる方も
多いのではないでしょうか。

「茶摘(小学校3年生で習う歌
なので、“茶つみ”と表記)」は、
明治から昭和にかけて、文部省が編纂
した“文部省唱歌”に選ばれた歌の
ひとつで、現在も小学校で歌われて
いるというから驚きです。

最初に音楽の授業に取り入れられた
のは、1911年(明治45年)の
「尋常小学唱歌/第三学年用」。

余談ですが、現在、世界最高齢
としてギネス認定されている116歳
の「田中カ子(かね)さん/福岡市」
が1903年(明治36年)生まれ
なので、音楽の授業ではじめて
「茶摘」を習った世代といえます。

その後、戦時中に音楽教材から
はずされる時期はあったものの、
再び音楽教材として採用。

“春がきた”“かたつむり”
“ふじ山”などの曲と並んで、
明治から令和にわたる、
5つの元号で歌われ続ける“唱歌”
のひとつとに数えられています。

長い歴史の中で、
生活環境も大きく変わり、
“あかねだすきに 菅の笠♪”
という歌詞の意味が、いまの小学生に
理解できるかどうかは判りませんが、
テンポの良いリズム感は、
子どもたちにも大人気とか。

手遊び歌として世代を越えて歌い
継がれる数少ない歌ともいえます。

「茶摘」の歌詞は、
京都の宇治田原地区に代々伝わる民謡
「茶摘み歌」の一節を元に
つくられたとされています。

現在、「茶つみ」の歌は、
他教科と関連づけて学習する
という地域もあります。

「音楽」だけにとどまらず、
「社会」や「理科」などの
幅広い教育教材として、
お茶の産地や種類、栽培方法、
収穫方法などを学ぶ教材として
取り入れられているとのこと。

“子どもの五感を刺激し、好奇心を
高め、児童の主体性を育む”授業
に用いられているということです。

“時代は変わった”と、
つくづく思い知らされます。

 

“八十八夜”に摘まれた新茶は、長寿の秘訣。

「八十八夜」は、1年を24等分して
季節を表す名称を付した
“二十四節気”の最初の
「立春」から数えて88日目の夜
のことで、雑節のひとつ。

雑節とは、“二十四節気
(さらに3等分した72候)”
や5節句などの季節の暦日に加え、
さらに季節の移り変わりを表した
“特別な暦日”のことで、節分や彼岸
、入梅、土用なども雑節です。

明治以前から使われている雑節は、
月の満ち欠けを基準とするため
「八十八“夜”」になったとのこと。

2019年の八十八夜は、
5月2日(木)。

「茶摘」の歌詞にある“夏も近づく”
のは、もう少し先のお話。

二十四節気の
6番目の「穀雨(4月20日頃)」と
7番目の「立夏(5月6日頃)の間に
位置する旧暦の春から夏に変わる時期
で、“八十八夜の別れ霜”
“八十八夜の泣き霜”などと
いわれる「遅霜」が発生する頃。

農家への遅霜による被害への
注意喚起の意味を込めて、
この雑節が定められたともいいます。

とはいえ、
季節の節目で霜もこれで最後。

間もなく訪れる
「立夏」を待つばかり。

新緑が鮮やかに映えはじめる八十八夜
を迎えるこの時期は、米づくり
においても馴染み深い日なのです。

地域によって作付けのタイミングは
異なりますが、田んぼに水を張ったり
、早稲の田植えが行われるなど、
農家が米づくりをスタートする時期で
、八十八を縦に並べると「米」という
漢字になることから、米農家が大切
にする日としても有名です。

日本酒の原料となる酒米をつくる
“酒米農家”でも同じように、
八十八夜はとても大切な日の
ひとつに数えられています。

“八十八夜=お茶”
というイメージを定着させたのが、
冒頭で紹介した「茶摘」の歌。

お茶の葉は、厳しい冬の間に養分
を蓄え、春の到来とともに
芽吹きはじめます。

最初に摘むのが「新茶(=一番茶)」
で、高い栄養価があり、味も格別。

そのため、“八十八夜に摘まれたお茶
を飲むと、病気にならない”とされ、
長生きの秘訣として
語り伝えられています。

ちなみに二番茶は6月から7月に
かけて、三番茶は8月末頃に
摘まれるお茶のことを指します。

長い歳月の中で変わることと、
変わらないこと。

日本独自に進化した文化が時折、
“ガラパゴス”に例えられますが、
そのおかげで世界一古い国家が
維持できているともいえます。

古い独自の慣習を“魅力”と感じる
ことが大切なのかも知れません。

老若男女を問わず、「茶摘」の歌を
口ずさむ光景は、世代を超えた
愛おしさに包まれています。