宇宙で発見された“水の気配”が、人々を宇宙へと駆り立てる。
1957年、ソ連(現ロシア)が
世界初の人工衛星
「スプートニク1号」
の打ち上げに成功。
人類の夢は宇宙へと、
その第一歩を踏み出しました。
そして、全世界を熱狂の渦に
巻き込んだ1969年(昭和44年)
のアポロ11号による
人類初の月面着陸から50年、
再び、宇宙開発の話題が
世間を賑わせています。
中国の無人探査機が
世界で初めて月の裏側に着陸し、
日本でも探査機「はやぶさ」が
小惑星イトカワの表面物質の採取
に成功した快挙に続いて、
小惑星リュウグウへの
着陸計画のまっただ中。
地上と宇宙をつなぐ夢の
「宇宙エレベーター」計画も、
現実味をおびた話になってきました。
「宇宙エレベーター」の仕組み
そのものは簡単な構造です。
赤道上空の高度
約3万6000キロメートルに
打ち上げられ、地球と同じスピード
で周回する人工衛星を、地上からは
止まっているように見えるため
「静止衛星」と呼びます。
この静止衛星から地上に向けて
ワイヤーをたらして
伸ばしていきます。
地球に向けたワイヤーの重さで
静止衛星が落下するのを防ぐため、
地上に向けたワイヤーと
地球と逆方向に向けたワイヤーに
よって全体の重力が
上手く釣り合うように延伸。
これにより静止衛星を中心とした
地球と宇宙を結ぶ軌道が誕生します。
このケーブルに昇降機を取り付け、
人や物資を輸送できるようにしたもの
が宇宙エレベーターです。
日本で強度と耐久性を兼ね備えた
「カーボンナノチューブ」という
新素材の開発に成功したことが、
計画を一歩進めたといえるでしょう。
月への着陸が叶った今、
次にめざすのは火星。
太陽に近い水星、
金星は表面温度が高く、
また木星や土星は表面が
分厚いガスで覆われ、どちらも
地表に降り立つことができません。
これらの惑星とくらべた場合、火星の
環境がもっとも地球に近いとのこと。
とはいえ、火星の厳しい自然環境を
限りなく再現したとして話題
となった、2015年公開のアメリカ映画
「オデッセイ」を見る限り、
空気も水もなく、昼夜の温度差が激しい
荒廃した火星には、
地球とはくらべものにならない
過酷さが立ちふさがっています。
そんな中、昨年8月に火星の
新たな話題が飛び込んできました。
欧州宇宙機関の研究チームが、
火星の軌道を周回する探査機
「マーズエクスプレス」の
観測データから、火星の南極の地下
に幅20kmにわたって“液体の水”
が存在する兆候があることを発表。
また、何かと物議を醸す米大統領が
“私の政権下でNASAが再興し、
我々は再び月に戻る。
その次は、火星だ”
とツイートしたのは、
今年の5月半ばのこと。
“液体の水”らしき存在が、
火星開拓への夢をさらに
一歩近づけたようです。
人類の生命維持に必要な空気は
もちろんですが、大切なのは“水”。
さまざまな生命の進化をいざなった
のは、水に由来する
ともいわれています。
私たちは、地球が、“水の惑星”
と呼ばれるほど、水に満ちあふれて
いることに感謝しないといけない
のかも知れません。
人類にとって“水”は、
命の源といえます。
“名水あるところに銘酒あり”という事実。
日本酒にとっての“水”も、決して
欠かすことのできないものです。
米と米麹を原料としていますが、
水が重要な原料であることは、
いわずと知れた事実です。
酒造りにおいて、“種水”とも
称される、直接、日本酒の原料
となる醸造用の「仕込み水」のほか、
米を洗う水、米を浸ける水、
酒母に使う水、
できあがった酒のアルコール度数
を調整するために使う割り水
などが、醸造に直接かかわる水です。
このほか、酒瓶の洗浄用の水、
釜や桶などを洗浄する水、
道具を熱湯殺菌する水、
酒蔵内を清潔に保つ清掃用の水
などの雑用水も含めると、
使用する水の量は白米重量の
30〜50倍にもなります。
昔から、酒蔵を構える際の
条件のひとつが、酒造りに
適した湧き水が近くにあるかどうか。
幸い、日本には仕込み用の湧き水に
恵まれた土地がたくさんあり、
優良な水脈の上に蔵が建っている
例も少なくありません。
日本酒造りには、酵母の栄養源
となって醗酵を促すミネラル
(カリウム、マグネシウム、リン
など)を豊富に含んでいる水
が適しています。
ただ、水に含まれるミネラル成分が
少なくても、米からうまく溶かし出し
さえすれば、ミネラルは足ります。
「灘の男酒、伏見の女酒」という言葉
は、“灘の水(宮水)は比較的硬度が
高く醗酵が進みやすいので、
後味の引き締まった味になる”
“伏見の水(御香水/ごこうすい)は
軟水なので醗酵がおだやかで、
まろやかな味になる”という
仕込み水の硬度の違いによる
“二大酒どころ”の特徴を
言い表したものです。
ちなみに、市販されている
ミネラルウォーターの硬度は
通常30〜40程度。
宮水の硬度は180と、かなり高め。
一方、御香水の硬度は40程度です。
しかし、日本中に点在する“旨い”と
される日本酒の仕込み水の硬度は、
20を切る軟水から
200を超える硬水までさまざま。
その水を使う蔵元が、それぞれの
硬度に適した特徴的な酒造りに
励んでいる賜物といえます。
国土交通省の発表によると、
世界で安心して水道水が飲める国
はわずか15カ国のみ。
そこに含まれる日本は、
世界屈指の水が美味しい国です。
それは厳しい基準によって
水が管理されているからです。
日本酒の仕込み水については、
水道水以上にさらに厳しい
条件が求められます。
とくに鉄やマンガン、銅は、
酒質の劣化を招きかねません。
ごく微量でも混入すると、
酒は黄褐色になり、
味を損なうことになります。
なかでも鉄分はもっとも
厳しい評価対象です。
酒造りの現場において、
さまざまな用途の水だけでなく、
貯蔵するタンクや桶などの道具類
にも、クギなどの鉄分が溶け出す
素材の使用は禁物。
ホーロー加工された鉄製タンクの場合
、ホーローの割れ目から鉄分が
染み出す恐れがあるため、
わずかな傷も見逃さない日々の
チェックは欠かせない日課のひとつ。
1840年(天保11年)に宮水が見つかる
までは、新酒は夏を過ぎると
味が落ちるのが一般的。
ところが、宮水で仕込んだ日本酒は、
適度に熟成が進み、まろやかな味の
「ひやおろし」「秋晴れ」となり、
芳醇な香りを漂わせるように
なったといいます。
これが後の「下り酒」として、
灘酒を江戸に広める
ことになりました。
宮水は鉄分が極めて少なく、
酵母などの増殖に欠かせない
カルシウム、カリウム、
マグネシウム、リンが豊富に含まれ、
また海に近い環境であることも幸い
して、適度に含まれる塩分も
酵母の醗酵に有効な成分です。
宮水は、花崗岩を主とした砂礫層の
岩盤を流れた3つの伏流水が
混じり合い「宮水の井戸場」に到達。
その途中で2つの伏流水は、
かつて海だった地層を通ることで、
類い稀な水質になるのではと
考えられています。
その成分構造は複雑で、
現在の最先端の科学をもってしても、
宮水と同じ水質の再現は
不可能とのことです。
長い歴史の蓄積によって磨かれた
“水”が育んだ私たちの文化。
その中でも、大自然の偶然の恵み
によってもたらされた“旨い酒”は、
人智により、さらに旨さを
増して行きます。