日本酒の旨さを支えているのは、国に守られた“カビの仲間”。

醗酵食品と醗酵飲料の相性が生み出すマリアージュ。

最近、チーズがブームのようです。

2018年は、若い女性層が
チーズタッカルビや
スイス原産ラクレットチーズを使った
料理を出すお店に足しげく通い、
コンビニのチーズスイーツに
人気が集まるなど、チーズの話題が
メディアでよく取り上げられました。

2019年も、シカゴピザやパネチキン、
チーズティーなど、“映える”
新しいチーズ料理が続々登場し、
女性を中心としたチーズ人気は、
しばらく続きそうな気配です。

日本のチーズ消費が
爆発的に高まったのは、
1975年(昭和50年)頃の
ピザが出はじめたあたりから。

グラタンやチーズフォンデュ、
チーズケーキなどの洋食文化の広がり
とともに、チーズは欠かせない食材
として、私たちのくらしの中に
定着していきました。

以前は独特な臭いや味で
敬遠されがちだったブルーチーズも、
美味しいパスタ料理や
相性のいいお手頃なワインが
数多く流通するようになったことで、
市民権を得たといえます。

ワインと料理の相性をマリアージュ
といいますが、ともに同じ醗酵させた
飲料や食品なので、もともと好相性。

また、チーズのタンパク質が
ワインのタンニンと結びついて
ワインの渋みをまろやかにしたり、
チーズ独特の刺激臭を
ワインの甘みが緩和したり、
チーズの乳成分が舌に膜をつくり、
ワインの渋みや酸味を
マイルドにするともいわれています。

ワインと同じ醸造酒である日本酒
ですが、実はチーズとの相性は抜群。

日本酒のアミノ酸による旨み成分が、
クセの強いチーズとうまくマッチして
美味しさの相乗効果を高めます。

海外のチーズ愛好家にも、日本酒との
相性を高く評価する向きがあります。

日本酒とチーズのマリアージュの一例
ですが、クセの強いブルーチーズに
合うのは「超特撰 生酛大吟醸酒」。

クセをうまく調和させてバランスの
良い旨みを醸してくれます。

マイルドな味わいの
モッツァレラチーズには、発泡系の
「スパークリング純米大吟醸酒
天使の吐息」。

菊正宗 天使の吐息

スッキリとした爽やかな味わいが
口に広がります。

「嘉宝蔵 灘の生一本 生酛純米酒」
には、ハードタイプのチーズ。

旨みとコクの絶妙なバランスが
楽しめます。

チーズは、乳酸菌や酵素、カビなどの
微生物の働きによる熟成工程で
乳タンパクや脂肪を分解し、それぞれ
のチーズの個性を引き出します。

また、個性的な特徴を生み出すため
に、カビを使ったチーズがあります。

青カビを使った独特な臭いとピリピリ
とした刺激的な食感のブルーチーズ、
白カビを使ったクリーミーで
まろやかなカマンベールチーズや
ブリーチーズがその代表格。

“カビ=有毒”と思われがちですが、
ほとんどの青カビ
(白カビも青カビの一種)は無毒。

むしろ抗生物質のペニシリン製造に
有用な微生物なのですが、
一部のカビ毒「マイコトキシン」を
持つものが重篤な食中毒の原因
となるため、そこばかりが目立って
いる残念な微生物といえます。

日本酒に欠かせない“黄麹菌”は、国菌に認定。

日本酒に使われる麹菌も
カビの仲間です。

ヒマラヤ地域と東南アジアを含む
東アジア圏には、特有の
醗酵文化が根付いています。

なかでも、微生物の繁殖に適した
高温多湿な日本は、日本酒などの
醗酵食品の長い歴史を育む土地柄。

日本酒だけでなく、
味噌、醤油、みりん、酢などの
醗酵に欠かせない黄麹をはじめ、
泡盛に使われる黒麹、
焼酎に使われる白麹は
国菌に認定され、
大切に守られています。

醗酵食品に馴染みの薄い
一部の欧米地域では、
カビなどの微生物による醗酵食品
への拒絶反応があるようです。

実は、人にとって有益なものであれば
“醗酵”、有害なものになれば“腐敗”、
両者のメカニズムは
同じものなのです。

1960年のイギリスで、
カビの生えた輸入エサが原因で
七面鳥が大量に死ぬ
という事件が発生。

麹菌の仲間によるカビ毒
「アフラトキシン」が原因でしたが、
その形態が黄麹菌と類似しており、
誤解を招くこととなりました。

もちろん、
黄麹菌はカビ毒を発生させません。

こうした麹菌の謎を解明するために、
2001年に麹菌の
全ゲノム解読プロジェクトが発足。

2005年には、麹菌が約3800万塩基対
からなる8本の染色体を持ち、微生物
では最大の約1万2000個の遺伝子が
存在することが判明しました。

この成果に基づいて、
麹菌196株に対して、
カビ毒「アフラトキシン」を発生
させる遺伝子の解析を実施。

半数近くの麹菌で遺伝子群が不安定、
残りの半数についても、
カビ毒「アフラトキシン」の遺伝子を
有しているものの、その機能を失って
いるという結果にたどり着きました。

科学的な解析により、
その安全性が証明された黄麹菌。

今後、科学の“目”は、
日本酒の旨さをさまざまな角度から
ひも解くことになるでしょう。

その高水準の学術的な研究に
驚くのはもちろんですが、
科学のない時代に生まれた
微生物の活用方法に、
拍手を贈りたいものです。