知っているようで知らない蝉の生態。
今年の夏は蝉の鳴き声が
なかなか聞こえてこないと
思っていましたが、
7月20日過ぎあたりを皮切りに、
7月末頃から大合唱が
繰り広げられています。
“蝉が鳴くと梅雨明け”と
思われがちですが、
微妙に異なります。
というのも、
羽化を控えた蝉の幼虫は、
土の温度が高くなることで
成虫になるタイミングを知ります。
夏が近づくことで気温が上がって
土の温度も上がりますが、
夏頃の暖かい南風でも
温度は高くなるのです。
一方、梅雨明けの定義は
“晴れの日が続くこと”なので、
両者には密接な関係はあるものの、
厳密にイコール
という訳ではありません。
例年より早い梅雨明けの時など、
「蝉の声」が聞こえない年もあります。
歳時記として大きくとらえるのなら、
間違いとはいえません。
ちなみに、気象庁では、
梅や桜の開花日、
カエデやイチョウの紅(黄)葉日、
ツバメやホタルの初観測日と並んで、
ウグイスやアブラゼミの初鳴き日を
“生物季節観測”情報として、
毎年公表しています。
“蝉は、
成虫になって1週間鳴き続けて死ぬ、
寿命の短い昆虫”
ともいわれていますが、
こちらはあきらかに間違いです。
蝉は、これだけ身近にいるのに
謎が多い昆虫。
まず、成虫の寿命が1週間くらい
と思われがちですが、研究の結果、
種類によって異なるものの、
おおむね1ヵ月程度ということが
解明されています。
夏に捕まえた蝉が、
1週間ほどで死んでしまう
ことから生まれた俗説で、
もともと飼育が難しい
ということがあげられます。
続いて、蝉の短命説。
幼虫として地中でくらす期間は
3年から17年。昆虫としては、
むしろ長い方に分類されます。
人間の目線で
“気の遠くなるような
長い下積み生活から脱出して、
日の目を見るようになって
すぐに絶命は儚い”
と考えがちですが、
蝉からすると、天敵が少なく、
大きな環境変化も少ない
土の中こそが快適なくらしで、
成虫になるために
快適な土の中から這い出すことこそが
苦痛なのかもしれません。
「蝉の声」を聞き分けると、意外と風流を感じます。
日本で観ることができる蝉には、
いくつかの種類があり、
その生息は地域によって異なります。
夏に鳴く蝉は、
それぞれの地域の気候や環境、
高度差によって前後しますが、
鳴く時期にはピークがあり、
おおむね次のような
順番となっています。
- ニイニイゼミ
(鳴き声は、チー ジー)
鳴く時期のピークは7月下旬、
1日中鳴いている。
日本全国に生息。
- クマゼミ
(鳴き声は、
ジー シャンシャンシャンシャン ジー)
鳴く時期のピークは
7月下旬から8月上旬、
日の出から正午にかけて鳴く。
西日本、東海、関東南部に生息。
- ヒグラシ
(鳴き声は、カナカナカナカナ)
鳴く時期のピークは
7月下旬から8月下旬、
日の出前、日の入り頃などに鳴く。
全国に生息。
- アブラゼミ
(鳴き声は、ジージージージージー)
鳴く時期のピークは
8月上・中旬、
日が傾く頃から日没後の
薄明るい頃に鳴く。
全国に生息。
- ミンミンゼミ
(鳴き声は、ミーン ミンミンミン ミー)
鳴く時期のピークは
8月上・中旬、午前中に鳴く。
全国に生息。
- ツクツクボウシ
(鳴き声は、ジー ツクツクボーシ
ツクツクボーシ ゥイヨーゥイヨー ジー)
鳴く時期のピークは
8月中旬から9月上旬、
昼過ぎから日没後にかけて鳴く。
全国に生息。
とくに、8月上旬から8月中旬の
「蝉の声」は、
何種類もの鳴き声が重なり、
余計に夏の暑さを
増幅するような感があり、
イライラはつのるばかり。
しかし、街がどんどん開発され、
緑が減っているにも関わらず、
何十年もの昔から、
変わることのない
「蝉の声」ともいえます。
ひとつひとつの「蝉の声」を
聞き分けてみると、
意外に自然のおおらかさを感じとる
ことができるのではないでしょうか。
夏の風物詩ともいえる「蝉の声」は、
昔の多くの歌人が句に残すように、
感じ方によっては風流と
捉えられなくもありません。
ようは、聞く本人の
心の持ちようといえるでしょう。