「浴衣」は、仏教とともに伝わった“湯帷子(ゆかたびら)”が原型。
今回は、「浴衣」に関するお話を。
新型コロナが発生していない、
いつもの夏シーズンであったのなら、
夏祭りや花火大会など、
「浴衣」を着る機会も多く、
また、外国からの訪日観光客が
京都の町屋で「浴衣」に着替え、
京都の街を散策するシーンが、
恒例の涼しげな夏の風物詩として
取り上げられていたことでしょう。
そんな夏の納涼シーンにつきものの
「浴衣」ですが、
その歴史は意外と古く
“仏教公伝”にまで遡ります。
“「浴衣」は、仏教とともに伝わった
“湯帷子(ゆかたびら)”が原型。
仏教公伝”の時期は、
552年や538年などの諸説がありますが
いずれの時期であったとしても、
仏教が伝わった際に建立した寺院には
湯堂や浴堂と呼ばれる沐浴のための
施設が併設され、それが日本の
“風呂”の起源というのが定説です。
というのも、それまでは、
神道の風習による、
川や滝で行われた沐浴の一種とされる
“禊(みそぎ)”により身を
清める習慣や
桶に水を張って身体を洗う
“行水”が、いわゆる
風呂のようなものでした。
それが、“仏教公伝”とともに、
病を退けて福を招来する沐浴施設が
伝わったことで(当時伝わった
“風呂”は、薬草を入れた湯を
沸かして、その蒸気を取り込んだ
蒸し風呂スタイル)
“風呂”に入ることが、
習慣となっていきました。
また、“風呂”と一緒に
沐浴時の衣装も伝わりました。
沐浴時の衣装、つまり、
飛鳥時代の女性の斉明天皇が
湯浴みの際に着用していた
バスローブのような形の
“湯帳(ゆちょう)”や、
平安時代に貴族が風呂に入る際に
着用した“湯帷子(ゆかたびら)”が
「浴衣」の原型です。
前述したように、最初は“湯帷子”を
着て蒸し風呂に入るのが、
最初の“風呂”のスタイル
といえます。
“ゆかたびら”という単語の
発音から転じて「浴衣」になったと
考えると、自然と納得がいきます。
時は流れ、安土桃山時代には、
裸で湯に浸かる“入浴”という習慣が
定着し、湯上がりに濡れた肌の水気を
吸い取らせるために“湯帷子”を
着るようになりました。
江戸時代になって木綿が普及し、
それまでの麻織物に
取って代わるように、
より吸水性の高い綿織物の
“湯帷子”が登場。
このスタイルが庶民の間で流行し、
やがて現代の「浴衣」へと
繋がっていくことになります。
鎌倉時代に一部で鉄湯船という施設が
あったようですが、
浴槽に湯を張って身体を浸ける、
現在の“入浴”スタイルが
いつ頃発生したのかは不明です。
古くからの“行水”と、伝わった
“蒸し風呂”が融合して、現在の
“入浴”スタイルになったと
考えられています。
ここ最近になり、夏場に「浴衣」を着る機会は、かなり増えていました。
近代になり、“湯帷子”が転じた
「浴衣」は、
湯上がりに着る“部屋着”
として重宝されました。
洋服が日本に伝わり始めた頃は、
まだ庶民の服装は和服の時代です。
それが、昭和になって洋装が
増えると同時に、“寝巻き”としての
役割が主流となっていきます。
そのため、昼間に「浴衣」を着て
外出するのは、今でいうパジャマで
外出するようなもので、
ややはばかられる時期もありました。
現代の「浴衣」は、
夏場のお洒落アイテムのひとつです。
冒頭で述べた花火大会やお祭り、縁日
時にはスポーツ観戦やテーマパーク
などで“浴衣ナイト”などの
イベント開催など、
夏場に「浴衣」を着る機会が
増加したことが「浴衣」人気に
拍車をかけます。
また、SNSでの“映え投稿”などでも、
夏場のバズる
ファッションアイテムとして
欠かせない存在感を
発揮しているというから驚きです。
手頃な価格で着やすい「浴衣」は、
訪日外国人のお土産としても、
かなりの人気のようです。
先ごろも、イタリアの
女子新体操チームが、
日本での試合後の
くつろいだオフショットとして、
カラフルな「浴衣」を着た写真を
SNSに投稿し、話題となりました。
バスローブのように自由に着る様は
微笑ましいのですが、
できれば正しい着付けにより
「浴衣」を着てもらえたなら、
本来、着物が持つ様式美や
粋な着こなしを
実感していただけたかもと思います。
着物に限らず、日本の伝統文化は、
長い歴史によって確立された
様式美というものがあります。
いわゆる伝統に裏付けられた
ある種の敷居の高さでしょうか。
その敷居の高さを下げて
ニーズを得るのではなく、
その高い敷居のまたぎ方を
教えることが、その文化が持つ
伝統の深みが伝わるものです。
「浴衣」を始めとする
着物文化のみならず、
私たちが取り扱う日本酒文化、
和食文化、和建築文化など、
日本の伝統文化は、知れば知るほど、
かなり深く、
かなり粋な風格を持っています。
1日も早く、当たり前の日常が戻り、
夏の風物詩として、何の気兼ねもなく
「浴衣」を着て出かけることを
願うばかりです。