「鰆(サワラ)」の“旬”に敏感なのは、釣り人たち。
テレビのクイズ番組や
漢字検定の影響もあって、
ここ数年続いている
難読漢字への興味は、
まだまだ続きそうな気配です。
難読漢字といえば、
“魚へん”の漢字が書かれた湯飲みを
寿司屋や自宅の食器棚、
田舎のおばあちゃんの家…
どこかで見たような
昔の記憶が蘇ります。
「鯛(タイ)」
「鮭(サケ)」
「鰻(ウナギ)」
「鰯(イワシ)」など、
よく目にする漢字なら
即答できるものの、
「魳(カマス)」
「鰈(カレイ)」
「鰒(フグ)」などは、
途端に記憶が怪しくなります。
魚につきものの“旬”を意識して、
“魚へん”に春夏秋冬の
それぞれの漢字を当てた時の読みは、
意外と難読です。
「鰆」はサワラ、
「鰍」はカジカ、
「鮗」はコノシロ。
残念ながら、“魚へん”に
夏を組み合わせた漢字はなく、
「魚夏」という熟語でワカシと呼び、
出世魚ブリの40センチ以下のサイズの
呼び名です。
これは関東圏だけの呼び名らしく、
それ以外で地域では
“魬(ハマチ)”のことを指します。
“魚へん”に四季が
組み合わせられているということは、
当然、その魚の旬は当てはめられた
季節と予測できますが、
スーパーの店頭で、賑やかに季節を
告げるほどのメジャーな魚
という訳でもないようです。
さて、今回はこの中から、
ちょうど今の時期、
春が旬の「鰆(サワラ)」を
取り上げます。
「鰆(サワラ)」はサバ科の回遊魚で
北海道南部から沖縄にかけての
広い範囲で、
“旬”の時期以外でも
水揚げされているようです。
とくに最近は温暖化の影響による
海水温の上昇に伴って、
日本海側で多く水揚げされており、
2019年(平成31年/令和元年)の
漁獲量1位は福井県で、
京都府、石川県、福岡県、長崎県と
続きます。
「鰆(サワラ)」が
スーパーなどの店頭に並ぶのは、
もっぱら切り身。
というのも、
体長約60センチ以上が
「鰆(サワラ)」の標準サイズで、
大きいものでは
1メートルを超えるものもいるため、
捕獲されたままの姿で
店頭に並ぶ機会は稀のようです。
ちなみに、60センチ以下のものは
“サゴシ”と呼ばれる出世魚。
そんな「鰆(サワラ)」に
一喜一憂するのは全国の釣り人たち。
「鰆(サワラ)」の
釣りシーズンともなると
餌となるカタクチイワシの
群れを追って、
日本の沿岸近くまで回遊してくる魚を
狙います。
突堤や防波堤から釣れるのは
60センチ未満の
「鰆(サワラ)」に成長する前の
“サゴシ”サイズが多く、
「鰆(サワラ)」を釣るのなら、
船からのルアー釣りが基本のようです。
肉食大型魚で性格は獰猛そのもので、
ルアーにかかってからの
魚の引きの強さは
釣り人たちにとって醍醐味のようで、
シーズンともなると、
より大きな「鰆(サワラ)」を狙って
数多くの釣り人たちは
海のスポットへと向かいます。
釣り上げた「鰆(サワラ)」の
歯は鋭く、
その名前の由来となった
“狭腹(さはら)”にもあるように、
細く平たい体型が特徴的な魚です。
「鰆(サワラ)」の“旬”は、年2回。味わいも異なります。
いきなり前言撤回となりますが、
実際に「鰆(サワラ)」の“旬”は、
春と秋の年2回。
まずは、春の“旬”。
関西を中心とした海域では、
5月〜6月頃、
産卵を控えた「鰆(サワラ)」が
瀬戸内海へと回遊して来ます。
この時期の「鰆(サワラ)」は、
さっぱりとした味わいで淡白、
身は柔らかく、
煮付けよりは味噌を使った西京焼きや
竜田揚げで食べられています。
関西では、
真子(卵巣)や白子(精巣)も、
一緒に食べられるのも特徴です。
そして、11月〜翌年2月の
秋冬の“旬”は関東の海域。
この時期に
産卵を控えた「鰆(サワラ)」は、
雑食気味でイワシやサンマを食べて、
産卵のための栄養を蓄えます。
そのため脂がのった
濃厚なこってりとした味わいが
“寒鰆(カンサワラ)”の特徴です。
これは、
太平洋から瀬戸内にかけて
回遊するものと
東シナ海から日本海を回遊するものの
生息域が異なるため。
同じ種類の
「鰆(サワラ)」なのですが、
関東圏以外は春、
関東圏は秋から冬が“旬”
とされています。
また、「鰆(サワラ)」の身は白く、
白身魚のようですが、
成分的には赤身魚に分類されています。
「鰆(サワラ)」は、日常的に
食卓に上がる魚ではありませんが、
この時期の店頭には必ず並ぶ
季節を告げる魚のひとつです。
まずは春が“旬”のさっぱりとした
味わいを楽しんでみましょう。
そして、その味わいを
記憶の端にとどめておいて、
秋から冬に出回る濃厚な味の
“寒鰆(カンサワラ)”を食べて、
その違いを試してみませんか。
春の「鰆(サワラ)」には、
すっきりとした冷酒、
秋冬の“寒鰆(カンサワラ)”には
燗酒がおすすめです。