「桜鯛」を楽しむなら、ぜひ挑戦したい“松皮造り”。
年に一度巡ってくる
春を告げる桜の季節は、
桜の蕾がほころぶ頃から散るまで、
わずか10日ほどですが、
名所でなくても、
桜並木の間を車で走り抜ける時など、
“春だな”と、
つい口を衝いて出るほど
王道の春の風物詩です。
最近、ソメイヨシノの色が
薄くなったのではという噂があります。
学術的な解明とまでは
いっていませんが、
どうやら昨今の気候不順も
少なからず関係しているようです。
花びらに含まれる
アントシアンという赤い色素は、
寒いと分解されずに
花びらの中にとどまるのですが、
暖かいと分解されて樹木に吸収。
また、寒い時に咲くほど
アントシアンが逃げないとのこと。
地球が少し暖かくなったなど、
気候が以前とは
異なっているようですが、
あの儚げな薄ピンクの花の色、
願わくば春の象徴として
今後も楽しみたいものです。
そんな春の象徴の桜を
名前に冠した「桜鯛」は、
桜が咲く3月から6月にかけて
水揚げされる“真鯛”の、
この時期だけの呼び名です。
これから初夏にかけて産卵期を迎え、
「桜鯛」は、オスメス共に、
色鮮やかな繁殖色になります。
とくにこの時期の「桜鯛」のオスは、
顔のピンク色がさらに鮮やかに発色し、
桜の花びらを散らしたような
白い斑点が現れます。
産卵に備えて身体に栄養を蓄え、
オスの白子やメスの卵巣も大きく育ち、
まさに“旬”ならではの
美味しさを堪能できるのが、
この時期。
スーパーの店頭にも
“旬”の食材として
当たり前のように並びます。
「桜鯛」を美味しく楽しむなら、
やはり“お刺身”が一番。
ポカポカと暖かくなり始めるこの季節、
合わせるのはキリッと冷えた
冷酒がオススメです。
天然の「桜鯛」が
一尾丸ごと手に入ったのなら、
ぜひ挑戦したいのが
“松皮造り(焼き霜造り)”。
鱗や内臓を丁寧に取り除いた後、
三枚におろすのは、
一般的な切り身と同じです。
刺身の場合は皮を剥がしますが、
“松皮造り”は脂ののった
皮目をいただくのがポイントなので、
皮の面を下に焼き網に乗せて、
全体に焼き色がつくまで
遠火で炙りましょう。
後は刺身のように切り分けて
美味しくいただくだけ。
焼いた皮の香ばしさと
身のプリプリ感に、
この上ない贅沢なひと時を
感じさせてくれます。
また、「桜鯛」は
白子や卵巣を持っていることが多く、
白子や卵巣があったら、
余分な部分を取り除いて
丁寧に水洗いし、
数分茹でて全体に熱処理をします。
その後は冷水で洗って、
ポン酢で食べたり、焼いたり、
甘辛く煮たり、
天ぷらなども美味しくいただけます。
必ず熱を加えて
寄生虫対策を取るのをお忘れなく。
「桜鯛」と「サクラダイ」に、「麦わら鯛」も加わって、どれを食べましょうか。
「桜鯛」は、「サクラダイ」と
カタカナ表記される場合も
ありますが、本来は
別の種類の魚の名前です。
「サクラダイ」は
ハタ科の15センチほどの小さな魚で、
産まれた時は全てがメス、
成長するとオスに性転換する
ミステリアスな魚。
その名の通り、鮮やかな赤い身体に
桜の花びらのような模様が
クッキリと現れるのが特徴です。
面白いのが、
「真鯛」と「サクラダイ」は
同じ水深を好み、食性も近いため、
釣りの際に一緒に釣れること。
春の釣りで、
「桜鯛」は釣果を競われ、
「サクラダイ」は外道魚
(狙っている魚ではなく、
釣れてしまう魚)
という悲しい扱いに。
一部に、“繁殖期の「桜鯛」は
全エネルギーを産卵に使うので、
栄養がそちらに取られ
肉は痩せ細る”という「桜鯛」に
厳しいコメントがある一方、
“「サクラダイ」は、白身魚で
皮目に脂がのって煮付けが美味しい”
というグルメコメントもあります。
産卵期を迎える多くの魚が
“旬”とされるという意味では
筋違いで、「サクラダイ」は
美味しく食べられる魚ということの
紹介と捉えたいところです。
残念ながら「サクラダイ」は
あまり店頭で見かけることはなく、
ほとんどか釣りの時に出会う魚で、
釣れたら逃す魚。
持ち帰って煮付けに挑戦する
価値はありそうです。
産卵を終えた「桜鯛」は、
途端に色の鮮やかさを失い、
全体的に地味な茶色系に
落ち着きます。
これを「麦わら鯛」や
「落ち鯛」と呼び、
産卵後の味落ちは否めません。
しかし、お手頃価格で買えるので、
意外と重宝するのが「麦わら鯛」。
風味そのものは、
「桜鯛」と比べると、
やや劣りますが、
塩焼きにすれば身が締まり、
煮付けにしても身が柔らかく
味の染みも文句なしの美味しさを
味わえるはずです。
贅沢に“旬”をいただく「桜鯛」。
霜降りの牛ステーキと比較すれば、
意外と手頃なのかも知れません。
季節を愛でる気持ちで、
冷酒と一緒に「桜鯛」、
さあ、いただきましょう。