駿河湾産の桜エビは希少種で、水揚げ量に限りがあります。
今年の桜えび漁(春漁)の解禁期間は
4月2日〜6月9日の約2カ月間です。
春漁が終わって以降9月下旬頃までの
産卵時期を禁漁、
再び10月下旬〜12月下旬の冬漁解禁と、
年に約2カ月ずつ2回の解禁期間が
設けられています。
この各2カ月の解禁期間にはそれぞれ
約2週間ほどの休漁日が含まれ、
天候や海の荒れ模様によっては
1週間以上も漁に出られないこともあり、
実質の漁期は
ひと月に満たないかもしれません。
日本で桜えびが生息しているのは、
駿河湾を中心に近接する遠州灘や
相模湾から東京湾にかけての海域で、
“海の宝石”とも呼ばれる
桜エビの生態系を守るために、
桜えび漁の漁獲許可エリアは
駿河湾の富士川沖と大井川沖のみに
限られています。
それも、由比漁港と大井川漁港の
許可証を与えられた
約120隻の漁船だけに許された
特別な漁といえます。
桜エビは昼間、水深200〜300m辺りの
深海に生息しており、夜に向けて
餌となるプランクトンを食べに
水深20〜30m辺りにまで浮上してきます。
それを捕まえるために、夕方、一斉に
漁に向かい、戻ってくるのは
午後10時前後。
具体的には、2隻の船が網を引いて
上層に浮上してきた桜エビを獲る
“船びき網”という漁法により
漁獲を行います。
網にかかった桜エビのデリケートな
体を傷つけることなく収穫するために
直接触れないように大きなホースで
吸い取ることで、鮮度を保つ工夫が
なされています。
さらに全船の水揚げを一旦
取りまとめて利益を分け合う
“プール制”を導入して、
競争激化による乱獲を防ぐための
漁業者や漁協の協力体制が敷かれたのが
1977年(昭和52年)で、現在も継続運用。
さらに、卵を抱えた産卵エビが
多く穫れ始めたり、
水揚げに適さない小さな稚エビが
半数以上獲れ始めると、
解禁期間を予定より早く打ち切るなど、
厳格な管理によって絶滅しないように
守られています。
とくに、2018年(平成30年)以降は
不漁が続き、解禁期間の
早期打ち切りはもちろん、
一度も出漁しないまま終わる
秋漁もありました。
また、不漁の原因を調査したところ
富士川水系の濁りが原因ということが
判明し、その結果、富士川上流の
民間管理ダムの堆砂による浸水被害の
発見に至ったという
桜エビの繊細な生育環境がもたらした
思わぬ功績もあったようです。
新鮮な桜エビを堪能するには、足を伸ばして駿河湾まで。
世界に目を向けても、
桜エビは、日本の駿河湾以外に台湾で
小さな漁が行われている程度で、
この2国のみでしか獲れない希少な
水産資源で、
獲れたてを生で味わえるのは世界で唯一、
静岡市だけなのです。
近年、輸送技術の向上によって、
数日間程度なら桜エビを生きたまま
運ぶことが可能となってきていますが、
まだ試験段階で、現実の流通までは、
しばらくかかりそうです。
また、元号が令和に変わる直前の
2019年(平成31年)2月、日本と台湾の
研究チームの調査によって
五島列島沖で桜エビの生息発見が
発表されました。
しかし、桜エビ漁の対象エリアに
なるほど生息しているかどうかは、
まだ分からないようです。
桜エビといえば春の風物詩
ということは知られていますが、
希少種ということまでご存知の方は、
意外と少ないのかもしれません。
お好み焼きに入っている
小さな干しエビのことを桜エビと
思っている人も多いようです。
アキアミという別の種の
素干し小エビやオキアミの素干しを
桜エビと勘違いしていることも
少なくありませんし、
産地偽装されているものも市場に
出回っているようで、
「駿河湾産桜エビ」という
統一認証ラベルを貼付する取り組みも
行われ始めました。
春の風物詩の桜エビを堪能するなら、
やはり、獲れたてが味わえる
現地が一番のようです。
生をわさび醤油で食べたり、
鮮度が命の釜揚げ桜エビや
香りが高い素揚げ、かき揚げ丼なども
現地ならではのおいしさが
実感できる料理のひとつです。
桜エビと豆腐、ネギをすき焼き風の
甘辛い出汁でさっと煮た
“沖あがり”という漁師料理も
味わいたいものです。
現地以外の方で、干し桜エビを
かき揚げやお好み焼きの具に使う場合は、
調理前に干し桜エビをフライパンで
軽く炒めて使うのがオススメ。
桜エビには旨味成分が
多く含まれているので、
炒めることでその香りを
際立たせてくれます。
冷凍加工された桜エビも解凍すれば
生の桜エビに近い味わいで
食べられるので、こちらもぜひ、
お楽しみください。
辛口のお酒は、
桜エビの素材の美味しさを
より引き出してくれます。
樽酒や純米吟醸酒の冷酒と合わせて、
春の美味しさを試してみませんか。