そろそろ、春の風物詩の「よもぎ餅(草餅)」が店に並ぶ季節。

「草餅」はもともと、“母子草(御形/ゴギョウ)”を搗きこんだもの。

春の風物詩のひとつに
「よもぎ餅」があります。

「よもぎ餅」は、
「草餅」の一種なのですが、
現在、「草餅」といえば
「よもぎ餅」を指すことが
ほとんどです。

春の節句の
3月3日の“桃の節句
(上巳の節句/じょうし)”、
5月5日の“端午の節句”の
どちらのにも「よもぎ餅(草餅)」
を飾る習慣があり、
スーパーや和菓子屋店頭で
節句のお供えとして
売り出されていることもあり、
春の風物詩という強い印象に
つながっているのかも知れません。

“上巳の節句”に
「草餅」を食べる風習は、
平安時代に編纂された
「日本文徳天皇実録」に、
“世間では俗に母子草と呼ばれる草が
野原に生えている。
二月にはじめて生え、
茎や葉は白くて脆い。
毎年三月三日になると、
婦女がこれを採り、蒸し搗いて
草餅を作ることが中国より伝わって、
歳事となっている”
との記述が登場します。

当時、「草餅」に使われていたのは、
“母子草(御形/ゴギョウ)”で、
強い香りが邪気を祓うという
古代中国の習慣に基づくものです。

併せて“端午の節句”でも、
邪気を祓う「草餅」を食べる
習慣が根づきました。

平安当時、
貴族は“母子草
(御形/ゴギョウ)”の「草餅」、
庶民は手に入りやすい
雑草の「よもぎ餅」を、
それぞれ別の食べ物として
春の節句の時期に
食べていたようです。

時代は移って、江戸時代。

母や子の縁起を願う餅なのに、
“母子草(御形/ゴギョウ)”
を一緒に搗くのは
縁起が悪いといわれ始めます。

やがて、
“母子草(御形/ゴギョウ)”
と同じく香りが良くて、
邪気を祓うとされていた
“よもぎ”を使った
「草餅」が主流に。

どこにでも自生していて
手に入りやすいというのも
“母子草(御形/ゴギョウ)”
に取って代わる
理由だったのかも知れません。

「草餅」イコール「よもぎ餅」は、
江戸時代に確立して、
現在に至っています。

“よもぎ”は、豊富な栄養価をバランス良く含んだスーパーフードです。

“よもぎ”は
中央アジアの乾燥地帯が原産で、
日本ではほぼ全国各地に自生する、
いわば雑草のひとつです。

踏み潰されたり引きちぎられても、
日当たりさえ良ければ
荒地でも育つほど生命力、
繁殖力が強いことに、
健康長寿や子孫繁栄をなぞらえて、
春の節句のお供えに
用いられてきました。

原産地を中心にヨーロッパでは
“ハーブの女王”とも呼ばれ、
古代エジプトやローマでは
パン生地に練り込んで焼いたり、
リキュールとして醸造。

古代中国の漢方でも、
浄血・造血作用、
むくみや冷え症の改善など、
古くから世界の広範囲で
その効用が認められてきたといえます。

実際に、“よもぎ”の葉には、
ビタミンAやビタミンB1、ビタミンB2、
ビタミンC、ビタミンKや
ミネラルが豊富で、βカロテン、
タンパク質、クロロフィルカリウム、
カルシウム、鉄、食物繊維などの
成分がバランスよく含まれた、
まさにスーパーフード。

古くから世界中で薬用として
重宝されてきました。

“よもぎ”を食べると、
貧血予防、美肌効果、
便秘解消、冷えの改善などの
嬉しい効果がたくさん得られます。

また、よもぎ蒸しやお灸、
お風呂に入れるなど、食用以外にも
健康と美容に良いものとして
幅広く使われています。

また、
“よもぎ”を餅の材料として使う
別の理由として、葉の裏の
白くて細かい毛が絡み合うことで、
程良いコシを加え、
口に入れたときの舌触りが良くなり、
味を一層引き立てる役割を
果たしているようです。

もちろん、
食べたときに鼻に抜ける
爽やかな香りも魅力のひとつ。

“よもぎ”は多年草で、
当たり前のように
野原で年中見かけますが、
食用に利用するのは、
3月から5月頃の若い芽だけ。

また生の“よもぎ”は傷みやすく
日持ちは2日程度で、
なにより、そこら辺の
いたるところに自生しているので、
スーパーの店頭に並ぶことは、
まずありません。

山に分け入って稀に目にする
ヤマトリカブトの若葉と
“よもぎ”の若葉は
よく似ているので、
摘むときはご注意を。

「よもぎ餅」を食べるなら、
野原に自生する“よもぎ”の
若い芽を摘んで茹でた後、
細かくみじん切りにする、もしくは
市販されている“よもぎ粉”を使用。

手でこねた上新粉と
白玉粉を合わせた生地を
ひと口大にちぎって蒸し上げ、
“よもぎ”、上白糖と一緒に
さらに手でこね、粒餡などを
中に入れれば完成。

もっと簡単なのは店で売っている
「よもぎ餅」を買うこと。

市販の「よもぎ餅」を
素焼きにしたり、きな粉をまぶす、
アイスクリームの
トッピングをするなど、
さらに美味しくいただくアレンジも
お楽しみのひとつです。