揺るぎない酒米ブランド「山田錦」。
ひと昔前、お米といえば、
「コシヒカリ」、「ササニシキ」の
二大ブランドが席巻していた米市場。
近年になり、“魚沼産コシヒカリ”など
米の産地がブランドとして認知され、
さらには品種改良によって
“あきたこまち” “ゆめぴりか”
“ひとめぼれ” “森のくまさん”など、
全国各地で特A銘柄に指定される
品質の高い米が生産されるように
なりました。
その背景には、ネット通販などの
流通環境の進化により、
全国津々浦々で購入できるように
なったことも大きな要因の
ひとつです。
日本人のDNAには、
米へのこだわりが組み込まれて
いるような気がします。
日本酒にとっても、
仕込みに使う“水”とともに、
その原材料となる“米”は
とても大切なもの。
日本酒に適した米といって、
日本酒好きが真っ先にあげるのは
「山田錦」です。
その歴史は古く
1923年(大正12年)に、
兵庫県立農事試験場(現在の兵庫県立
農林水産技術総合センター)
で産声をあげ、1936年(昭和11年)
に兵庫県の奨励品種
「山田錦」として登場。
それ以降、約80年以上
にもわたって酒米(酒造好適米)
として不動の地位を
確立してきました。
現在、全国の生産量の約8割を
兵庫県産が占め、
とくに三木市や加東市の一部は
特A地区に指定されています。
全国の新酒鑑評会では山田錦を
原材料にした出品酒の金賞受賞率
が高いのも特長のひとつです。
このほか、北陸を中心に
普及している「五百万石」や
長野「美山錦」、新潟「越淡麗」、
広島「千本錦」などが酒米として
名を連ねています。
そして、山田錦の遺伝子を受け継ぐ
「兵庫恋錦」は、次世代の日本酒を
担う酒米として期待されるところ。
ご飯として食べる白米と
醸造用の酒米を比較した場合、
長い歴史を持つ山田錦がいまだ
トップの座を譲らないことを
考えると、酒米の品種改良は
かなり繊細で難しいことが
うかがえます。
良い酒米の条件
酒米とご飯として美味しい
白米とでは、その構造に
大きな違いがあります。
酒造りに適した米とは、
一般的に以下のような特徴を持つ
米を指します。
●大粒、軟質である
(精米時に表面を大きく削るので、
大粒の方が削りやすい)
●水に浸した際の吸水性がよい
(蒸米にした時に、
均一の水分量を保つ)
●蒸米が
“外硬内軟(がいこうないなん)”で、
手触りに弾力がある
●麹菌の破精(はぜ)込みがよい
(麹菌の菌糸が米の中心に
入り込みやすい)
●酒母や醪中で溶解性、糖化性がよい
(アルコールの生成が早い)
●タンパク質や脂質が少ない
(タンパク質や脂質は
日本酒になったときの雑味の要因)
●酒質が良い
(日本酒の味や香りに
キレが生まれる)
つまり、醸造時に麹菌が
活躍しやすい構造になっている
ということです。
米の澱粉を糖化しながら、
酵母が糖をアルコールに替えることで
日本酒が生まれますが、
この麹菌がうまく働かないと
美味しい日本酒は生まれません。
そのため澱粉が詰まった
水晶のように透明な一般の白米
ではなく、削りやすい大粒で、
雑味や苦みの原因となる
タンパク質含有量が低く、
中心に「心白」という
白い部分がある品種が
酒米として最適とされています。
心白の白い部分は、スキマができて
光の屈折により曇って見える
状態です。
このスキマから中心に向かって
麹菌の菌糸が入り込みやすいことを
“破精(はぜ)込みが良くなる”
といいます。
米の表層部に多く含まれる
タンパク質や脂質を取り除くために、
酒米の表面を30〜50%も削り落とす
と、球体のようになります。
そこから香り高いお酒になるために
複雑な工程へと進んでいくのです。
食卓に並ぶ白米へのこだわり
もさることながら、
日本酒醸造の原料米への
こだわりも妥協を許しません。
日本はつくづく米文化の国
であることを実感します。