亥の子祭りは、西日本の一部地域で伝承。
台風直撃が重なり、
お天気は荒れ模様ですが、
朝晩の涼しさに
秋の気配を感じる今日この頃。
そろそろ熱燗が美味しい季節です。
熱燗といえば徳利と猪口(ちょこ)が
つきものです。
まずは徳利。
注ぐ時の“とくり”という音から
その名がついたというのが通説です。
なんとも風流なお話といえます。
では熱燗を頼む時に使う
“お銚子一本!”のお銚子はというと、
本来のカタチは雛人形の
三人官女のひとりが持っている
“長い柄のついた急須”のようなもの
が銚子、別名ではそのカタチから
長柄とも呼ばれます。
では猪口(ちょこ)はというと、
いくつかの説があります。
「ちょく(猪口)」が転じた語で、
チョットしたものを表す“ちょく”や
飾り気がないことを表す
“ちょく(直)”がその由来と
考えられているようです。
徳利も猪口の漢字表記は、
その音を当てはめた当て字で、
大陸からの言語に由来するとの見解が
一般的とされています。
さて、猪口に使われている「猪」と
同じ意味で使われる「亥」の漢字を
使った風習が、秋の深まった
この時期にあります。
「亥の子祭り」と呼ばれるもので、
旧暦の10月(亥の月)はじめの
亥の日、亥の刻(午後9〜11時頃)
に、秋の五穀豊穣をお祝い、
新米でついた亥の子餅を食べて
無病息災を願うお祭りです。
猪の多産にあやかって
子孫繁栄を願う意味も
込められています。
今年の亥の子祭りは
11月3日の初亥の日。
主に西日本に多く分布する行事
のひとつですが、祝日になっている
行事や、七夕、中秋など全国に
名を知られている歳時とは異なり、
地域ごとに特色があります。
大きなものは広島市内の各所で
行われている「大イノコ祭り」
が有名で、広島県の他地域をはじめ、
愛媛県、山口県、滋賀県、大分県、
三重県、奈良県、京都府などの
一部限定で代々伝わっている
行事です。
東日本エリアには、
この亥の子祭りの風習はなく、
北関東を中心に甲信越から
東北地方南部にかけて
旧暦10月10日に行われる
「十日夜(とおかんや)」
という同様の行事があります。
祭りのスタイルは千差万別。
もともとの起源は古代中国の
「亥子祝(いのこのいわい)」
とされ、毎年、
亥の月、亥の日、亥の刻に
穀物を混ぜた餅を食べると
病気にならないという
無病息災を願う儀式が、
平安時代に日本に伝わり、
宮中行事に取り入れられたのが発端。
それが江戸時代になって
秋の収穫時期のお祭りとして
庶民の間に広まったとされています。
つまり、多産の神はすなわち
豊作の神に通じるところから、
次第に農村にも稲の刈り上げの行事
として広まり、また、
商人も多産を商売繁盛につなげて
祝うようになりました。
初亥の日は武士、
第二の亥の日は農民、
第三は商人というように
分かれて祝ったとされ、
商人中心の大坂では商人が
第二の亥の日を祝ったといいます。
亥の子祭りは、それぞれの
土地土地の風習として語り継がれ、
独自の祭りとしてとり行われている
ため、地域によって行事内容も
多種多様です。
よく行われている行事としては、
子どもたちが藁を束ねた藁鉄砲か、
何本もの荒縄で縛った亥の子石を
持って、グループになって家々を
訪ね、藁鉄砲や亥の子石で地面を叩く
「亥の子搗き(いのこづき)」
を行います。
これは土地の邪霊を鎮め、
土地の神に力を与えて
豊かな収穫を祈るという
おまじないだといわれています。
地面をたたいたり、練り歩く際に、
唱えごとしたり、亥の子唄という
数え唄を歌うのにも地域特色が
色濃く表れます。
亥の子搗きをしてもらった家は、
子どもたちに、お菓子や餅などが
振る舞われ、子どもにとっては
ご褒美づくしの一大イベント。
流行のハロウィンに似たような
趣です。
そして行事に食べられるのが
「亥の子餅」。
猪の子どものウリボウに似たカタチ
のものや、餅の表面に小豆を
まぶしたもの、紅白の餅など、
これも地域によってさまざま。
亥の子搗きはするけれど亥の子餅は
食べない、またその逆もあるなど、
その地域の特色が表れる
面白い行事のひとつといえます。
昭和40年代に亥の子唄の練習や
準備が忙しくて、子どもたちの
勉強に身が入らないとの理由から
学校が行事そのものを禁止にし、
廃れてしまった地域がある反面、
郷土の伝統行事として保護され、
受け継がれている地域もあります。
いずれにせよ、少子化や過疎化など
の問題でこうした地域特色の濃い
行事がなくなるのは、
少し寂しさを感じます。
また猪は炎を司る神である
摩利支天の使いとされ、
この亥の日の日に、
炬燵(こたつ)開きや炉開き
を行うと、火災から免れる
とされてきました。
子どもたちが亥の子唄を歌いながら、
練り歩いている時に、大人たちは
炬燵に足を放り込み、今年初めての
鍋と燗酒で楽しむひとときかも。
大人たちにとっても嬉しい日に
間違いありません。