春待ち「イカナゴ漁」と「イカナゴのクギ煮」
立春を過ぎたあたりから
厳しい寒さも少しやわらぎ、
ときおりのぞく暖かい日差しに、
間近な春の訪れを
肌に感じる季節となりました。
春の風物詩のひとつとして、関西、
とりわけ神戸地域で盛んな
「イカナゴのクギ煮」と呼ばれる
郷土料理が有名。
イカナゴのクギ煮は、神戸の西に位置
する“播磨灘”の垂水沖や明石沖で
穫れる“新子”と呼ばれる
イカナゴの稚魚を、醤油、
砂糖(ざらめ)、みりん、生姜などで
甘辛く煮詰めた佃煮です。
クギ煮の材料となるイカナゴは、
日本全国に分布する
スズキ目イカナゴ科魚類に属する魚で
、漢字で「玉筋魚」と書くのは、
泳ぐ姿が“玉”のように群れて、
“筋”のような魚姿から
きているとのこと。
英名「sand lance(砂の槍)」は、
水温が高くなる夏には砂に潜って
夏眠する習性を表現したものです。
播磨灘の海底に産卵に適した砂地
があることから、兵庫県の水揚げ量
は全国の約5割を占めています。
クギ煮の本場となる神戸や明石近辺
では、イカナゴの稚魚を
「新子(シンコ)」、
東日本では「小女子(コウナゴ)」。
成魚になると、
神戸では「古背(ふるせ)」、
東北は「大女子(オオナゴ)」、
北海道は「女郎人(メロウド)」
などと、地域によって
その呼び名が変わります。
また、イカナゴという名前は、
どの魚の稚魚なのか判らなかったこと
から、“いかなる魚の子なりや”と
いう意味からきている説が有力です。
歴史をひも解くと、イカナゴ漁は
江戸時代前期にまでさかのぼります。
イカナゴのクギ煮の記述は
昭和10年(1935年)に発行された
神戸の料理人によるグルメ本
「滋味風土記」に、漁師がつくる逸品
“釘煎り(くぎいり)”として登場。
この頃は、一般の家庭料理ではなく、
加工業者による商品として紹介され、
その需要を超える分は
養殖魚用のエサにされていたという、
なんとももったいない時代でした。
こうした状況を大きく変えたのは、
地元の漁師の妻たちが所属する
漁協の女性部。
“漁師の家に伝わる
クギ煮の美味しさを広めれば、
イカナゴの需要も高まる”と、
平成元年(1989年)に調理方法を
教える講習会を初めて開催。
“誰もが失敗なくつくれる”
統一のレシピの研究を重ねる中、
口コミで広がった講習会への
参加者も増えていきました。
大きな転機を迎えたのは、
平成7年(1995年)の
阪神・淡路大震災の後。
漁協女性部の努力の成果もあり、
震災の復興支援のお礼として、
イカナゴのクギ煮を、お世話になった
全国各地へと贈ることが、
一挙に一般家庭に浸透しました。
各ご家庭で、
元となる統一レシピをアレンジし、
その家ごとに伝わる独自の味が
つくり出されていきました。
イカナゴは鮮度が命。
早朝に水揚げされたイカナゴの
新子を求めて、昼頃には
店頭に行列ができるほど。
家庭でつくる量も年を追うごとに
増えていきました。
2月末〜3月初旬あたりの
イカナゴの新子漁解禁から
約1ヶ月がシーズンですが、
小振りの新子が好まれるため、
解禁から約2週間が勝負。
この期間は、主婦にとって昼夜を
問わずイカナゴのクギ煮づくりに
精を出す、まさに苦行のような期間。
シーズン中に25キロから50キロを
炊き上げ、遠方の親戚や友人への
春の風物詩として配る強者主婦も
少なくありません。
日本酒にも春を告げる新酒「しぼりたて」があります。
イカナゴのクギ煮だけでなく、
日本酒にも春を告げる
お酒があります。
新酒しぼりたてです。
仕込みを終えて醪(もろみ)を搾った
後、火入れ(低温加熱殺菌)瓶詰め
したのが新酒「生酛しぼりたて」で、
“今が旬”のしぼりたてらしい、
フレッシュな荒々しい味わいと
鮮烈な香りが癖になると
販売即完売の人気のお酒。
菊正宗では、新酒「生酛しぼりたて」
の本醸造と大吟醸を期間および
数量限定で販売しています。
売り切れる前に、春ならではの
美味しさを楽しみたいものです。
ここ数年、
播磨灘の海底の砂が流されて
イカナゴの産卵場所が狭まったり、
海水温度が上昇するなど、
イカナゴの生態系に影響を与える
さまざまな要因で、
イカナゴ漁は不漁続き。
魚の価格は、水揚げに比例して
キロ単価が決まる“時価”なので、
一般家庭に普及しはじめた頃と
比べると、キロ単価は約4倍にも
高騰し、以前ほど大量に炊く
ご家庭は減りつつあります。
菊正宗公式ネットショップでは、春を
いざなう新酒「生酛しぼりたて」と
「燻製いかなごくぎ煮」をセット
にして2月26日(火)注文分までの
期間限定販売中です。
こちらも売り切れる前に、
お早めにお求めください。
とくに、イカナゴ漁不漁の影響
を受け、「燻製いかなごくぎ煮」
をご提供できる
最後のチャンスかもしれません。
この機会をお見逃しなく。
2019年のイカナゴ新子漁
の解禁日は2月27日(水)。
この日を境に、
神戸の街のあちらこちらで、
クギ煮を炊く甘辛い匂い
が漂いはじめます。
匂いに春を感じ、できたての
イカナゴのクギ煮と新酒
「生酛しぼりたて」で春を味わう。
これほど贅沢な春の楽しみ方も、
なかなかオツなものです。