精米歩合とアル添が、日本酒分類の基準。
以前、テレビのバラエティ番組の
ニューヨーク特集で、
スーツ姿のニューヨーカーたちが、
“ジュンマイダイギンジョウ”と
注文するシーンを
見かけたことがあります。
ビジネス街に程近い立地で、
日本食を中心とした
居酒屋スタイルのお店でした。
店内は、アメリカ映画などで
よく見る“誤った日本観”満載の
アジアンテイストではなく、
日本の懐き良きレトロな雰囲気を
上手く取り入れた、
凝ったつくりの装飾。
昨今の日本食ブームもさることながら
、日本酒も外国人に受け入れられて
いると実感した瞬間でした。
通信や物流の加速度的な発達は
、世界をより身近なものへと
近づけているようです。
昭和の“級別制度”が廃止され、
現行の分類に落ち着いたのは、
1990年(平成2年)のこと。
その体系の基本が、
8種類の「特別名称酒」と、
それ以外の「普通酒」です。
この日本酒の分類体系を
簡単に紹介すると、
分類体系を知る上での
ポイントは大きく2つあります。
「精米歩合で名称がかわる」
「醸造アルコールを
添加(アル添)していないもの
には“純米”と表記される」。
この2つを組み合わせて、
普通酒を加えた9種類が
決まるということです。
精米歩合とは、
米を磨いた残りのパーセンテージ。
たとえば、“精米歩合60%”の場合、
4割が削られることになります。
- 精米歩合50%以下…
純米大吟醸酒/大吟醸酒(アル添)
- 精米歩合60%以下…
純米吟醸酒/吟醸酒(アル添)
- 精米歩合60%以下、
または特別な製造方法…
特別純米酒/特別本醸造酒(アル添)
- 精米歩合70%以下…
本醸造酒(アル添)
- 精米歩合の規定なし…
純米酒/普通酒(アル添)
日本酒のラベルに記される原材料と
醗酵を促す醸造工程の基本
はほとんど同じ。
ということを考えると、米や水、
麹菌の種類、なにより、
その特長を巧く引き出す時間や
温度の管理技術など、微妙な“さじ加減”
の大切さを思い知らされます。
この差を実感したい方には、
種類の違う日本酒の飲みくらべを、
ぜひお勧めしたいところ。
飲みくらべて分かる、その違い。
日本酒の深さを知る、
いい機会といえます。
手間ひまかかる吟醸酒づくり。
なかでも、手間ひまのかかる「吟醸酒」。
読んで字のごと
く“吟味して醸造する”日本酒です。
精米歩合60%以下、
大吟醸酒ともなると
50%以下まで酒米を磨くのが、
吟醸を名乗るための条件。
まず、精米。
米の磨かれ具合にばらつきがあったり
、砕けた米が混入していると、
酒の質を落とし兼ねないため、
細心の注意が必要です。
精米時間に二昼夜を費やす
ことも多くあります。
精米後、摩擦熱を持った米を
倉庫で冷ます“枯らし”工程。
そして3〜4週間後、
残っている糠を取り除くために
“洗い”の工程となります。
ご飯の米は“とぐ”といいますが、
酒造りにおいては、
米と米を擦り合せると米粒が
砕けてしまうこともあるため、
文字通り “洗う”工程といえます。
洗い終えた米は水に浸けて、
米の芯まで適度に吸水させますが、
水を吸わせすぎると蒸米が
柔らかくなりすぎて、その後の
麹づくりが上手くいかないことも。
その日の気温、
米の品種、新米か古米か、
収穫時が豊作か凶作か、
さまざまな条件を加味した
調整は必須です。
とくに吟醸酒の場合、
精米歩合が低くなるので、
洗米、浸漬は基本、
手作業が中心です。
そして“蒸し”工程。
ご飯は炊くといいますが、
酒造りでは“蒸す”です。
蒸した米は硬めに仕上がるので、
米粒同士があまりくっつかず、
麹づくりの際、
麹菌が繁殖できる表面積を
大きくすることが目的です。
また、炊いた米は消化しやすいため、
糖化と醗酵のバランスが崩れて、
日本酒独特の並行複醗酵が上手く
できないことも挙げられます。
ちなみに炊いた米の水分が約65%
なのに対して、蒸した場合は
約35%とい大きな差があります。
吟醸酒では、低温でじっくりと
醗酵を行う必要があるため、
糖化とアルコール醗酵の
バランスがとても大切。
蒸米が柔らかすぎると
米が溶解しやすく、
醪(もろみ)の糖分が増加。
それに伴って
酵母の醗酵も弱まります。
醪を仕込んでしまうと、
あとは温度管理により
バランスをコントロール
しなければならなくなります。
酒造り全般にいえることですが、
“良いお酒を造ろうと思えば、
原料処理に行き着く”
といわれるほど、
これまでの工程はとても大切です。
そして次に続く“麹づくり”は、
さらにデリケートです。
米の芯まで繁殖する麹菌が育つ
“突き破精麹(つきはぜこうじ)”
をつくりだすとともに、
低温長期醗酵の醪の中でも
でんぷんを分解し、
酵母のエサとなるブドウ糖を
十分に供給させるため、
二晩がかりの温度管理は大切です。
麹菌が繁殖しはじめると、
自らの発する熱のため、次第に
麹の周囲の温度は上昇し、やがて
麹の繁殖が止まってしまうためです。
そして醪の工程。
醪は10℃以下の低温で、
30〜40日もの長期にわたる
低温管理が必要です。
低温の場合、
醪の酵素の働きや酵母の醗酵が
抑制されるため、
時間がかかるということです。
とくにこだわった吟醸酒をつくる際は
、次の“しぼり”の工程で、
醪を入れた酒袋を吊るして、
ゆっくり時間をかけ、
自然にしたたるお酒を採る「袋搾り」
や「しずく搾り」という
手法を採る場合もあります。
とくに、アルコール添加のできない
「純米大吟醸酒」では、
お酒のアルコール分はすべて酵母
からつくらないといけないため、
酵母の醗酵力を最後まで
維持しなければなりません。
酒米を半分以下まで磨き、
酵母の働きをコントロールするために
低温での醗酵管理が重要なポイントです。
普通酒とくらべると、
膨大な手間とひまがかかる吟醸酒づくり。
旨さの探求のためには、
それも大切なことです。
こうした苦労の末に誕生する吟醸酒の
お話を思い浮かべながら飲むと、
その味わいや印象も深まり、
より一層堪能できるに違いありません。